健康情報コラム・1

運動の三日坊主克服法を考える

竹中晃二(早稲田大学人間科学学術院教授・教育学博士)

1. 継続させることこそが成果をあげる秘訣

秀雄さんは、最近肥満気味のからだが気になり、町の体育館で週2回運動し始めました。また、通勤や職場ではエレベーターやエスカレーターを一切使わずに階段を上ることにし、毎日鬼のような顔をして階段をもくもくと上っていきます。主婦の朋子さんも中年太りに危機感を募らせ、へそくりをフィットネスクラブの会費にあてることにしました。朋子さんは、短期間の減量を目指し、さらに階段の利用、お掃除に犬の散歩、家庭菜園にと、これもあれもとからだを動かすことを実行しています。

さて、お二人はいつまでこのような禁欲生活に耐えることができるでしょうか。私たちは、一生涯おいしいものを我慢して食べない、苦痛に耐えてしんどい筋トレをやる。このような状態を続けていくことはきわめて困難なことです。しかも禁欲抑制効果と言って、禁欲生活がわずかでもゆるめば、今までの習慣はいっぺんに崩れてしまいます。あれこれ同時に欲張らないで、まずは、「いつ」、「どこで」、「どの程度」というような要素を明確にした実行計画をたて、特別に欲張ることなく、まずはできることから始めていくことが継続するために重要なことです。

たとえば、朝の出勤時では、○○駅のどの階段を上るのか、お昼休みにはどこを歩くのか、帰宅時には自宅近くで少し多めに歩けるコースを決めておくことで最低限の活動量を確保し、加えて、週末に時間が確保できれば体育館に行って運動を行うというような生活です。行き当たりばったりに、ただからだを動かしたらよいのではなく、まずは基本になる活動を決めておくこと、しかも時間帯や場所、そして程度を決めた身体活動を行うことをお勧めします。運動では、継続させることこそが成果をあげる秘訣なのです。わかっちゃいるけどねえ、そう思ってしまうような敷居の高い運動は始めることも続けることも難しいのです。

2. 運動行動の特徴を見極める

運動不足に代表されるように、私たちが行う不健康な行動は、医学的な知識の提供、また病気になるぞという脅しや指導だけでは簡単に実践することが難しく、特に生活習慣病に関わってはボディブローのように効いてくる不健康習慣の積み重ねをいかに修正し、逆にそれをどのように継続させていくかは私たちにとって大きなチャレンジです。「何をどのように行ったらよいのかわからない」、「仕事が忙しくって」、「自分は(まだ)健康だから」と、誰も「近々起こりもしない病気」に目を向けようとはしません。そのため、私たちは、 健康づくりに関する行動について、次の3点に気をつけて考え方を変える必要があります。

  1. 「やらない」か「やる」かという2者択一の考えを捨てる私たちが運動の実践を考える場合、「やらない」か「やる」かの『ゼロかイチかモード』で考えてしまうと、このイチの敷居がきわめて高くなって始めることすらできなくなってしまいます。そのため、運動と言わないまでも無理なく目の前でできることから始め、何もやらないよりはわずかなことでもやった方がましという考えを持たないといけません。どんなことでも、まずは「始める」ことが大事なのです。
  2. 運動はもともと「続かない」
    運動に限らずどのような行動でもそうですが、動機づけの高さや意志の力が強いのは、開始時にこそ見られるものの、それらを数ヵ月、数年も継続し続けることは並大抵のことではありません。「続く」ということを前提に考えていくと、「続かない」自分は意志が弱く、やる気のないだめな人間と写ってしまいます。しかし、もともと「続かない」ことを前提に考えていくと、では続けるためにどのように工夫したらよいかを考えることになります。
  3. 逆戻り(一時的停止、長期停止)に備える
    せっかく身に付いたウオーキングの習慣が、悪天候が続いたり、残業がはいったりして少しずつ遠ざかっていくことは誰にもあります。そのため、どういう時や状況で一時的停止が起こりやすいのかをあらかじめ考えておき、その時や状況に「備える」ことが一時的停止の予防となります。また、たとえ一時的停止が起こったとしても、そのようなことは誰にでも起こることであって、罪悪感を感じる必要はなく、長期停止に陥ったとしても時期が来ればまた始めたらよいことです。要は、諦めてしまわないことが復帰の条件となります。

次回では、もともと続けることが困難な運動を続かせるための工夫を紹介するつもりです。ご期待ください。

バックナンバー

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著者・竹中晃二 プロフィール

1952年大阪生まれ。早稲田大学教育学部卒。ボストン大学大学院博士課程修了。教育学博士(Ed.D.)。現在、早稲田大学人間科学学術院(大学院人間科学研究科・人間科学部健康福祉科学科)教授。日本ストレスマネジメント学会常任理事、日本健康心理学会理事・編集委員、日本体育協会スポーツ医・科学専門委員会委員。専門は健康心理学、身体行動科学、行動変容、ストレスマネジメント、運動心理学。
近著に『ストレスマネジメント―「これまで」と「これから」―』(ゆまに書房)、『身体活動の増強および運動継続のための行動変容マニュアル』(ブックハウスHD)、『身体活動の健康心理学:決定因・安寧・介入』(大修館書店)など多数。
自身のストレスマネジメントとしてダラダラペースのジョギング、料理を作りながら飲むビール、夕食時の冷えた白ワインをこよなく愛す。